笠井潔「バイバイ エンジェル」

 なんだかんだと読了。いろんな意味で「新本格」に影響を与えた作品であるなぁ〜と、実感。出版が79年という四半世紀も前の作品にも拘らず、現在の「探偵不在の推理小説」を書いているのにはちょっと驚き。トリック的には、古き良き的なモノだったけど、解決に至る行程は現行のモノと比べてもなんら遜色ないできばえで、「新本格」から読み始めた世代でも面白く読める。古典といわれてしまうようなところは、あまり無い。
 探偵不在の作品の探偵役として、この作品は謎の(笑)日本人(一応、舞台がパリなので登場人物はほとんどフランス人です。)の<矢吹駆>が登場する。彼の語り口調や、事件へのアプローチや人嫌い(笑)や口笛を吹く癖など、現行の作品に非常に強く影響を与えているところが見受けられて、見つける度に、ほくそえんでいた。

 まず、口笛を吹く謎の人物から、上遠野浩平ブギーポップは笑わない」のブギーポップは、登場するシーンで必ず口笛を吹いている。

 事件を解決では無く、解体して捕らえ、関係者と対峙した時の語り口調や思想的脅迫の手口は、京極夏彦京極堂こと中禅寺秋彦の手口と似ている。しかも、描写が「東洋の呪い師のような」と書かれているのも、読んでいて「これか!」と笑ったところ。

 日本人の作家が書いた作品ではあるけれど、セリフの書き方などがどうも訳した海外作品っぽく書いているように感じる。まあ、フランス人作家で読んだことがあるのは、モーリス・ルブランの「ルパン」シリーズとボリス・ヴィアン「日々の泡(泡沫の日々?)」だけなのだが、華美に装飾的な言葉を使うフランス気質(パリ気質かな?)が、そういう雰囲気を醸しだしているかな?

 読み終わって、巽昌章の解説を読んでみて時事ネタとして影響があった「連合赤軍事件」を取り上げていた。確かに、この作品の初期に非常に印象的に使われたのは「赤」で、この作品を象徴する色となっている。ちょっとこの後、積読本になっている大塚英志「彼女達の連合赤軍」を読み始めようかな…。

バイバイ、エンジェル―ラルース家殺人事件
笠井 潔

発売日 1995/05
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